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SOGIE/ LGBTQ+ コラム

(11)「国際カミングアウトデー」に考える、私たちができること

10月11日は国際カミングアウトデー。カミングアウトはLGBTQ+コミュニティのメンバーにとって大きな決断であり、多くの勇気を要する行為です。本記事では、国際カミングアウトデーの歴史やその意義、カミングアウトを巡る認識のギャップ、そしてカミングアウトがもたらす変化について解説します。また、誰もが自分らしく生きられる社会を実現するために、個人や企業ができることについてもご紹介します。

※本記事はカミングアウトを推奨するものではありません。個人の状況や安全性を考慮し、自己決定することが重要です。

国際カミングアウトデーとは

Amsterdam Pride 2022 / photo by Rina Amagaya

国際カミングアウトデーは、性的指向や性自認をカミングアウトしたセクシュアル・マイノリティ(LGBTQ+)の人々をお祝いする日とされています。この日の起源は1987年10月11日にさかのぼります。その日、ワシントンD.C.で「レズビアンとゲイの権利のためのワシントンマーチ(Second National March on Washington for Lesbian and Gay Rights)」が行われました。
翌1988年、アメリカの心理学者ロバート・アイヒベルク(Robert Eichberg)とLGBT活動家のジーン・オリーリ(Jean O’Leary)が、このマーチを記念して国際カミングアウトデーが制定されました。National Coming Out Day組織とともに初めての催しを開催し、LGBTQ+の人々の可視化と権利擁護を目指しました。

1993年には、National Coming Out Day組織がHuman Rights Campaign(HRC)と合併。1996年にはNational Coming Out Projectが立ち上げられ、カミングアウトする人々やその過程を理解したい人々に向けたリソースガイドや情報提供が始まりました。
プロジェクトの初期には、アーティストのキース・ヘリングが1988年に描いた「クローゼットから出る人」のイメージが寄贈され、LGBTQ+コミュニティへのリソース提供活動のシンボルとなりました。
参考:
ヒューマン・ライツ・キャンペーンの関連ウェブサイト
東京レインボープライド「国際カミングアウトデー」

日本におけるLGBTQ+の認知度とカミングアウトの現状

日本でのLGBTQ+の認知度は年々向上しています。2015年の調査では「LGBT」という言葉の認知度は37.6%でしたが、2020年には69.8%にまで上昇しました。2023年にはLGBTQ+当事者層の割合は9.7%と推定されています。
参考:電通LGBTQ+調査2023

しかし、認知度が高まる一方で、カミングアウトの実態は依然として厳しい状況にあります。厚労省が発表した調査によれば、トランスジェンダーの人々で約7割、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルの人々で約8割が職場でカミングアウトしていないという結果が示されています。

出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「令和元年度 厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業 報告書」2020年

なお、カミングアウトとアウティングはまったく異なる概念であり、その違いをしっかり認識しておくことも重要です。自分が知らないところで、セクシュアリティが広まっている…そんな経験、ありませんか?

  • カミングアウト: 当事者自身が自分の性的指向や性自認を自ら明らかにすることです。主語は当事者自身です。
  • アウティング:第三者が、当事者の了承なしに、その人の性的指向や性自認を暴露すること。アウティングの主語は第三者です。

性的指向や性自認は非常にデリケートな個人情報ですので、アウティングは重大なプライバシー侵害にあたります。誰にカミングアウトするかは本人が決めるべきことであり、当事者に大きな精神的苦痛や社会的不利益をもたらす可能性があります。そのため、他人の性的指向や性自認を許可なく公表することは避けるべきです。

「あの人には理解してもらえそうだから話せるけれど、この人には知られたくない」と感じることは、性別に関係なく誰にでもあるものですよね…!

カミングアウトを巡る当事者と非当事者間のギャップ

カミングアウトは、LGBTQ+コミュニティの当事者にとって非常に重要かつ繊細な問題です。しかし、当事者と非当事者の間には、カミングアウトに対する認識に大きなギャップが存在していることが、電通のデータによって明らかになりました。(掲載許可をいただいています)

参考:「実はずっと聞いてみたかったこと」フル版ダウンロードリンク(無料)
https://www.d-sol.jp/ebook/lgbtqplus-research-2023-things-i-have-always-wanted-to-ask-you

◆ 当事者の本音◆

・48.6%の当事者が、職場や学校でカミングアウトすると「居づらくなると思う」と回答。

・43.3%が友人・知人にカミングアウトすることを「重荷に感じる」と回答。

◆非当事者の本音

84.6%の非当事者が、LGBTQ+の人からカミングアウトされたら「ありのまま受け入れたいと思う」と回答。

・77.7%が、友人・知人からカミングアウトされることを「信頼されていると感じて嬉しい」と回答。

こちらの数字を見ていると、まるでお互いが片思いしているかのような状況であり、もどかしい距離を感じずにいられません。本来なら近づけるはずの関係性が遠ざかってしまっています。それぞれ相手に配慮したいという気持ちがありながら、思い込みやバイアスが相互理解を阻害しているとも言えるのではないでしょうか。

とはいえ、特に職場でのカミングアウトは、当事者にとって依然としてハードルが高い状況です。

マジョリティである非当事者が”アライ(理解者・支援者)”として行動すること、その様子が可視化されることは、当事者の不安を軽減し、少しずつ状況を改善するためのきっかけになる可能性があります。一気に変化を起こすのは難しいかもしれませんが、それぞれの人間関係を大切にしながら対話を重ねることで、ギャップを埋めることができるのではないでしょうか。

職場や学校などでLGBTQ+フレンドリーな環境を作るために、まずは自分から一歩踏み出してみませんか?理解と行動が、職場や社会全体の変化につながります。

参考:work with Pride「アライについて

カミングアウトが人生を変えた事例

カミングアウトは多くの人々の人生にさまざまな変化をもたらします。実際にカミングアウトを経験した方々の事例を紹介します。

LGBTQ+フレンドリー企業への転職

Aさんは、同性パートナーが在住する関西エリアへの転職を考えていました。それまではクローゼット状態で職場生活を送っていましたが、転職を機にカミングアウトを決意。LGBTQ+フレンドリーかつ同性パートナーと社宅を利用できる制度のある企業を探し、希望通りの転職を果たしました。

転職後、Aさんはカミングアウトとともに社内制度を利用し、パートナーとの社宅生活を始めました。制度設計に関わった担当者の方々にとっても朗報となり、Aさんは現在、当時者であることをオープンにしながら社内の啓発活動にも協力しています。「本当に今回の転職とカミングアウトを決断してよかった」と、仕事への意欲や会社への貢献意識も高まったそうです。

親子の絆の深まり

カミングアウトは、家族関係を深める契機となることもあります。

例えば、母親のBさんは高校生の息子からカミングアウトを受けた当初、戸惑いを感じました。しかし、息子を理解しようと、LGBTQに関する情報収集やレインボープライドでのボランティア活動など、積極的に行動を起こしました。結果として、息子との対話が増え、最初の不安を乗り越え、親子の絆がより強くなったといいます。このように、カミングアウトをきっかけに、家族が互いを理解しようと歩み寄ることで、より深い関係性を築ける可能性があるのです。

国際カミングアウトデーにできること

国際カミングアウトデーは、単にLGBTQ+の人々の存在を祝福するだけでなく、社会全体でより深い理解と受容を促進する機会でもあります。以下に、国際カミングアウトデーをきっかけとして、私たちができることをいくつかご紹介いたします。

1. カミングアウトをテーマにした書籍を読む

  • 「カミングアウト・レターズ」(RYOJI・砂川秀樹編 太郎次郎エディタス)
  • 「カミングアウト」(砂川秀樹著・朝日新書)

これらの書籍を通じて、カミングアウトの多様な経験や、その背景にある社会的な文脈について理解を深めることができます。

2. 映画を通じてカミングアウトについて考える

以下の短編映画では、カミングアウトにまつわるストーリーが描かれています。

これらの作品を鑑賞した後、職場の同僚、友人、家族と対話を行うことで、より深い洞察が得られるでしょう。

3. カミングアウトした人々の思いを知る

「OUT IN JAPAN」というカミングアウト・フォト・プロジェクトでは、実際にカミングアウトを経験した人々の写真と言葉が紹介されています。これらの声に耳を傾けることで、カミングアウトの持つ意味や影響をより身近に感じることができるでしょう。

「LGBTER」というサイトでは、LGBTQ+の人々のインタビュー記事が公開されています。一人ひとりのインタビュー記事がとても充実しており、自覚や葛藤、家族や友人へのカミングアウト、職場での悩みなど、生の声をたくさん読むことができます。

4. アライとしてできることを考え行動してみる

誰もが誰かのアライになれます。私はレズビアン当時者かつ、トランスアライであるために、トランスカラーのピンバッジをスーツの襟の部分につけることがあります。皆さんもLGBTQ+の人々をサポートするアライとして、できそうな行動を考えてみましょう。バッジなどのアイテムを活用する他に、職場や学校でLGBTQ+フレンドリーな環境づくりに貢献したり、地域のレインボープライドにボランティアとして参加したりすることもできます。

おわりに

理想的なのは、「カミングアウトが必要ない社会」の実現かもしれません。しかし、そこに向かう道のりには、まだまだ多くの課題が残されています。今日からあなたにできることは何でしょうか? 一冊の本を手に取ること、友人と対話を深めること、職場で理解促進のための一歩を踏み出すこと…。

どんなに小さなことでも、それが誰もが自分らしく生きられる社会への道を切り開く力となるのではないでしょうか。

国際カミングアウトデーの時期は、そのような行動を起こすための絶好の機会です。この日を単なる記念日としてではなく、変化の始まりとして、具体的な行動につなげていきませんか?

誰もが安心して自分らしく生きていける社会の実現を目指して、共に、その未来へ向かって歩んでいきましょう。

五十嵐 ゆり

1973年東京都生まれ。2012年、LGBTQ支援団体Rainbow Soupを発足。2015年3月にNPO法人化し、レズビアンであることをオープンにする。2015年7月、アメリカ国務省主催のLGBTプログラム研修生に選抜され、全米各地を訪問。2017年8月、オランダ・アムステルダム市より招聘を受け「international guests Amsterdam Pride 2017」プログラムに参加。
2018年、レインボーノッツ合同会社を設立。当事者としての経験や最新情報などをベースに、企業・自治体のSOGI・LGBTQ施策支援・社外相談窓口対応を展開。2019年〜2023年6月まで一社LGBT法連合会理事を務める。2023年4月より、NPO法人プライドハウス東京 共同代表に就任。

  • 一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所 認定トレーナー
  • 筑紫女学園大学非常勤講師