レインボーノッツ合同会社

SOGIE/ LGBTQ+ コラム

(9) アンコンシャス・バイアスの事例【職場と日常で比較】

「あいつ、いつまでも独身だけど、もしかしてそっち系?」「LGBTQの人たちって特殊だよね」「そういう人は、うちの会社にはいないよ」という言葉、皆さんも見聞きしたことがあるのではないでしょうか。つい無意識に思ったり言ってしまうことって、誰にでも経験があると思いますが、そうした言動はアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)と言われています。今回のコラムは、アンコンシャス・バイアスをテーマにお届けします。

目次
アンコンシャス・バイアスとは
SDGsとアンコンシャス・バイアス
アンコンシャス・バイアスの代表例
なぜアンコンシャス・バイアスが生まれるのか
■職場におけるアンコンシャス・バイアス事例
日常におけるアンコンシャス・バイアス事例
まとめ 大切なことはアンコンシャス・バイアスを知ること

アンコンシャス・バイアスとは

先ほど紹介した「あいつ、いつまでも独身だけど、もしかしてそっち系?」「LGBTQの人たちって特殊だよね」「そういう人は、うちの会社にはいないよ」といった台詞のように、つい思ったことや感じたことを、言葉にすることは誰にでもあります。人はこれまでの経験や知識、見たもの、知っていることからものごとを理解しようとする思考スタイルがあるとされており、多くの情報を素早く処理するには、欠かせない働きです。しかしその処理において、知識や経験に偏りがあったり、思い込みや先入観が影響を与える場合があります。

そのような無意識の思い込みや偏ったものの見方を「アンコンシャス・バイアス」と言います。「無意識」であることが特徴の一つであり、アンコンシャス・バイアス自体をなくすことはできません。

冒頭の例をはじめ、「男性(女性)だから○○するべき」「子育てしているから○○だろう」「高齢者(若者)は○○である」など、属性や背景などの情報だけで勝手に分類・判断し、イメージを単純化してしまうことも、アンコンシャス・バイアスの一例と言えるでしょう。

SDGsとアンコンシャス・バイアス

では、SDGsの観点でアンコンシャス・バイアスの課題を見ていきましょう。

特に、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の達成には、アンコンシャス・バイアスへの対応が大きく関わっています。女性の働きにくさや賃金格差、男性の育休取得浸透の壁は今もなお課題となっており、ジェンダー・ギャップ指数のランキングを見ても、政治・経済で大きな男女格差があることが明らかになっています。これらは、根強い性別役割分業意識やアンコンシャス・バイアスなどが主な原因と言われています。

また、目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標8「働きがいも経済成長も」、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、それぞれの目標においても、アンコンシャス・バイアスによる機会平等の損失や、心理的安全性への悪影響、組織のパフォーマンス低下、イノベーションの起こりにくい風土など、様々な課題との関連があります。

アンコンシャス・バイアスに自覚的になり、言動を見直し、改善していくことは、それぞれの目標達成の重要な鍵を握っています。

■アンコンシャス・バイアスの代表例

2022年11月、内閣府男女共同参画局が「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)」に関する調査結果を公表しています(回答者10,906人:全国20-60代男女、インターネット調査)。その結果内容から、アンコンシャス・バイアスの代表例を見ていきましょう。

性別役割について尋ねた内容で、男性女性ともに「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」が一番高い結果となりました。

男性・上位5項目
1.男性は仕事をして家計を支えるべきだ 48.7%
2.女性には女性らしい感性があるものだ 45.7%
3.女性は感情的になりやすい 35.3%
4.デートや食事のお金は男性が負担すべきだ 34.0%
5.育児期間中の女性は重要な仕事を担当すべきでない 33.8%

女性・上位5項目
1.男性は仕事をして家計を支えるべきだ 44.9%
2.女性には女性らしい感性があるものだ 43.1%
3.女性は感情的になりやすい 37.0%
4.育児期間中の女性は重要な仕事を担当すべきでない 33.2%
5.女性は結婚によって、経済的な安定を得る方が良い 27.2%

一方、性別に基づく役割や思い込みを言われたり、感じたりした経験も尋ねており、女性は「家事・育児は女性がするべきだ」が40・8%で最も多く、男性は「デートや食事のお金は男性が負担するべきだ」が29・4%で最も多い、という結果になっています。この「経験」については、男性より女性の方が性別に基づく役割や思い込みを決めつけられた経験があると回答している割合が高いことも明らかになっています。

■なぜアンコンシャス・バイアスが生まれるのか

「アンコンシャス・バイアス」とは、無意識の思い込みや偏ったものの見方であることを紹介しました。ではなぜ人は、無意識の思い込みをしてしまうのでしょうか。一社アンコンシャスバイアス研究所代表の守屋智敬氏は、以下のように述べています。

アンコンシャス・バイアスの正体は「自己防衛心」です。脳がストレスを回避するため」に、脳が無意識のうちに、自分にとって都合のよい解釈をすることによって起きています。

(「アンコンシャス・バイアス」マネジメント 最高のリーダーは自分を信じない かんき出版)

このような自己防衛心による言動は、自然なことであり、誰にでもあること。アンコンシャス・バイアス自体が問題ではなく、自分のアンコンシャス・バイアスに気づこうとしないことが問題である、と述べています。まずはアンコンシャス・バイアスの存在に自覚的になるということと、その思い込みに対処していくことが大切です。

■職場におけるアンコンシャス・バイアス事例

では、職場における事例を見ていきましょう。皆さんも身近で見聞きしたケースがあるのではないでしょうか。

・育児期間中の女性は重要な仕事を担当すべきでない
・組織のリーダーは男性の方が向いている
・受付、接客・応対(お茶だしなど)は女性の仕事だ
・大きな商談や大事な交渉事は男性がやる方がいい
・仕事で成功していても、結婚をしていない男性は何かが足りないと感じる

内閣府「令和4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査結果より」

こちらの調査では、各項目と関連した自由回答も紹介されています。

・組織のリーダーは男性の方が向いている
「仕事の開発グループのリーダーについて、同僚の⼥性の⽅が優秀なのに、男性だからという理由で私がなったこと」
「チームリーダーはやっぱり男性の⽅が理性的なので、⼥性よりは男性の⽅がいいって会社の⼈の話を聞きました」

・大きな商談や大事な交渉事は男性がやる方がいい
「取引先との商談の際に、実際は⼥性の私が責任者として動いていたにも関わらず、表⽴って対応したのは男性社員だった。その場では明らかに「アシスタント」として扱われた」

・育児期間中の女性は重要な仕事を担当すべきでない
「⼥性だから⼦供の⾯倒を⾒なければいけない。実際育児をするのは⼥性が中⼼であることが多く、男性のほうが稼いでいる家庭が多いと思う。育児によって短時間勤務になるのであれば、仕事の内容を担当可能なものにしなければいけない。と⾔われた」

いずれのケースについても、第三者からの決めつけに対し、回答者が納得していない様子が伺えます。職場におけるアンコンシャス・バイアスは、士気の低下や人間関係の悪化などにも大きな影響を与えているのではないでしょうか。

■日常におけるアンコンシャス・バイアス事例

同じ調査結果から、日常におけるアンコンシャス・バイアスも見ていきましょう。皆さんにとって思い当たるケース、いくつあるでしょうか。

・家事、育児は女性がするべきだ
・男性が洗濯物を干すのはみっともない
・家を継ぐのは男性であるべきだ
・男性は結婚して家庭を持って一人前だ
・結婚したら姓を変えるのは女性であるべきだ
・共働きでも男性は家庭よりも仕事を優先するべきだ
・共働きで子どもの具合が悪くなった時、母親が看病するべきだ


自由回答もご紹介しましょう。

・家事、育児は女性がするべきだ
「仕事探しの時期について、⼦どもの育児や家庭を優先させたほうが良いと実⺟や義⺟から⾔われた。偏⾒ではないと思うが、夫は育児の場⾯で話にも出てこなかったので、基本的には家事・育児は仕事をしても⼥性がしなければいけない事だという印象を受けた」

・男性が洗濯物を干すのはみっともない
「近所の男性は、「男が洗濯物を⼲すのだけはみるにたえない。やめたらいいのに」といっていた」

・家を継ぐのは男性であるべきだ
「家を継ぐのは男と⽗親から⾔われた」
「実家を継ぐのは⻑男だというのを妹に⾔われた」

職場の事例と同様に、第三者からの価値観・理想の押し付け、男はこうするものだ等の決めつけが生じていることがわかります。「良かれと思って」「あなたのためを思って」という理由であっても、自分の思い込みを一方的に伝えることは、人間関係の悪化などをもたらしかねません。職場においても日常においても、このアンコンシャス・バイアスに対処することが重要なことが分かります。

■まとめ 大切なことはアンコンシャス・バイアスを知ること

では、どう対処したらいいのでしょうか。ポイントは3点です。

・「これって、私のアンコンシャスバイアス?」と気づこうとすること
・「決めつけない・押しつけない」こと
・相手の表情や態度の変化等のサインを手がかりに対応すること

アンコンシャスバイアスは誰にでもあり、完全に払拭することはできませんが、「上書き」はできます。ぜひ、一人ひとりがイキイキとする社会をめざして、「アンコンシャスバイアスに気づこうとすること」を大切にしていただけたらと思います。

参考「一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所」

弊社が提供するセミナーでは、LGBTQ+を切り口としたアンコンシャス・バイアスへの対応についてもご紹介しています。ダイバーシティ推進のカギを握るアンコンシャス・バイアスについて、ぜひ研修テーマとしてご検討ください。

オンライン研修はこちら
その他研修全般はこちら

職場風土や課題に合わせたカスタマイズもしております。
お気軽にお問い合わせください。

五十嵐 ゆり

1973年東京都生まれ。2012年、LGBTQ支援団体Rainbow Soupを発足。2015年3月にNPO法人化し、レズビアンであることをオープンにする。2015年7月、アメリカ国務省主催のLGBTプログラム研修生に選抜され、全米各地を訪問。2017年8月、オランダ・アムステルダム市より招聘を受け「international guests Amsterdam Pride 2017」プログラムに参加。
2018年、レインボーノッツ合同会社を設立。当事者としての経験や最新情報などをベースに、企業・自治体のSOGI・LGBTQ施策支援・社外相談窓口対応を展開。2019年〜2023年6月まで一社LGBT法連合会理事を務める。2023年4月より、NPO法人プライドハウス東京 共同代表に就任。

  • 一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所 認定トレーナー
  • 筑紫女学園大学非常勤講師