SOGIE/ LGBTQ+ コラム

(10) プライド月間とはなにか まずは、できることから 

(10) プライド月間とはなにか まずは、できることから 


皆さんは「プライド月間(Pride Month)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。LGBTQ+に関するイベントに参加したことがある人、職場や学校での啓発活動に取り組んでいる人にとっては、お馴染みの言葉かもしれません。今回はこの「プライド月間」をテーマにお届けします。

目次
■プライド月間(Pride Month)とは何か?
■レインボーフラッグについて
■プログレッシブプライドフラッグ
■プライド月間にできること
■まとめ

■プライド月間(Pride Month)とは何か?

毎年6月が「プライド月間」と呼ばれており、LGBTQ+のコミュニティを祝福し、差別や偏見のない、公正で平等な社会を目指すために設けられたと言われています。ではなぜ6月が「プライド月間」と呼ばれるようになったのか、ご存知でしょうか。

プライド月間を知る上で欠かせない、歴史的な背景を見ていきましょう。

1960年代以降、世界各地で差別に対抗し、公正と平等を求めるLGBTQ+の人たちによる社会運動(ゲイ解放運動)が広がっていった時代がありました。デモや集会、さまざまなキャンペーンが展開されますが、警察や反対派による度重なる嫌がらせや暴力にもさらされていました。非暴力を旗印に活動するグループがある一方、各地で警察との諍いや暴動も起き始めていました。

そうしたなか、1969年6月28日未明、ニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」にて、警察による不当な踏み込み捜査が行われ、その場にいたLGBTQ+の人たちがビール瓶やレンガを警官たちに投げつけ始めました。次第に抵抗は激しさを増し、日頃の弾圧に対する不満を爆発させた群衆によって、数日間に渡る暴動へと発展しました。この「ストーンウォールの反乱」は、ゲイ解放運動の歴史における一つの節目として、歴史に刻まれることになります。

ドキュメンタリー映画「STONEWALL UPRISING」のトレーラー。当時の様子がうかがえる動画です。

この反乱が局所的なものにとどまらず、むしろ同時多発的に世界中でゲイ解放運動と呼ばれる社会運動が盛んになっていったのは、世界中で差別に抵抗するコミュニティが育っていたからだと考えるべきでしょう。

LGBTを読みとく -クィア・スタディーズ入門- (森山至貴著・ちくま新書)より

「ストーンウォールの反乱」の翌年、1970年6月28日、この事件の1周年を記念するデモ行進がニューヨークで開催されました。行進者たちが「Out of the closets and into the streets!(クローゼットから出て、街へ出よう!)」と連呼する声に促されて、参加者はふくれあがり、最終的に5000人規模にもなったという記録が残っているそうです。

同日、ロサンゼルス、シカゴ、サンフランシスコなどアメリカ各地でも同様の行進が行われ、毎年恒例となっていきます。お互いの「プライド」を祝福し合い、公正と平等を求める運動は次第に世界各地へと広がり、現在の「プライドパレード」や「プライド月間」につながったとされています。

日本においても、1994年、東京で初のプライドパレードが行われ、その後、全国各地で開催されるようになりました。2019年からは、パレード・フェスティバル等の主催団体によるネットワーク、JAPAN PRIDE NETWORK(全国プライドネットワーク)が、情報共有や広報などで協力することを目的に活動をスタートしています。

プライド月間に合わせた関連の活動は、この数年、企業でも盛んに行われるようになっています。

■レインボーフラッグについて

性の多様性やLGBTQ+を象徴し、祝福するサインとして、今ではよく知られるようになったレインボーフラッグ。このフラッグを考案したのは、アメリカ・サンフランシスコのアーティスト、ギルバート・ベイカーという方で、最初のレインボーフラッグは、1978年6月25日にサンフランシスコで行われた「ゲイ・フリーダム・デイ・パレード」に登場したそうです。

「オリジナルのデザインは8色の縞模様です。それぞれの色がそれぞれの意味を持っていて、ピンクはセクシュアリティ、赤は命、オレンジは癒し、黄色は太陽の光、緑は自然、青緑は芸術、青は調和、すみれ色は精神です。でも気づいているように、いまのレインボー・フラッグは6色だけですよね。理由は、ピンクと青緑色の安い布を見つけ出すのが難しかったからなんです。

LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の闘い(ジェローム・ポーレン著、北丸雄二訳・サウザンブックス社)より

その後、アメリカ国内で広く活用されるようになり、レインボーカラーも何度かの変遷を重ね、今では世界中のプライドパレードや関連イベントで掲げられるようになっています。

なお近年では、レインボーフラッグ以外にも、多種多様なジェンダーやセクシュアリティを象徴するフラッグが知られるようになってきました。

2023.2.22 オーストラリア・シドニー、オックスフォードストリートにて撮影

こちらは、世界最大級とされるLGBTQ+の祭典「シドニー・ゲイ&レズビアン・マルディグラ」の時期に合わせて、シドニー市内に設置されたパネルの一部です。「FLAGS OF IMPORTANCE(重要な旗)」と題して、22種類もの旗のデザインと、その旗が表すセクシュアリティについての説明があります。

パネルに記されたメッセージが素晴らしい内容なので、ご紹介します。

Sydney recognises this rich and diverse history extends far beyond the content in these illustrations. There are many people, places, and events that may not be featured in this artwork that have made a significant contribution to the fight for rights and the celebration of Pride in our city. We give thanks for them all.
The artwork on the scaffolding wrap features a number of recognised Pride flags that represent the many communities of identity within the LGBTQ+ community.

シドニーは、この豊かで多様な歴史が、これらのイラストに描かれた内容をはるかに超えて広がっていることを認識しています。この作品に登場しないかもしれませんが、私たちの街で権利のための戦いやプライドを祝うことに大きく貢献した人、場所、出来事がたくさんあります。私たちは彼らすべてに感謝を捧げます。
このアートワークには、LGBTQ+コミュニティの中でアイデンティティを持つ多くのコミュニティを象徴するプライドフラッグが描かれています。


パネルには、アボリジナルフラッグも紹介されています。先住民族へ敬意と尊重を示し、文化を継承しようという動きの高まりが背景にあり、アボリジナルの人々によるLGBTQ+コミュニティも存在します。

SDGsが掲げる「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という視点に立てば、先住民族に限らず、障害のあるLGBTQ+の人々、周縁化されがちなジェンダーやセクシュアリティの人々に対しても、しっかり着目する必要があります。上記のメッセージは、イラストに描かれた内容をはるかに超える、多様なコミュニティの豊かな広がりと歴史があることを思い起こさせてくれます。

自分達のアイデンティティを確認し、お互いに尊重や祝福をし合うことで、LGBTQ+コミュニティの人々が垣根を越えて繋がりを広げ、共に支え合ってきた歴史を学び伝えていくことも、とても大切なことなのではないでしょうか。

■プログレッシブプライドフラッグについて

先ほどのパネルにも登場する、こちらのフラッグ、昨今は国内外でよく見かけるようになりました。
プログレッシブプライドフラッグと呼ばれるものです。

2023.2.22 オーストラリア・シドニー市内にて撮影

6色のレインボーを基調に、白色、ピンク、水色、茶色、黒色のカラーが含まれています。

白色・ピンク・水色は、トランスジェンダーを象徴するカラーで、1990年代から使用されるようになりました。また、茶色は褐色の有色人種、黒色は黒人を示しています。トランスジェンダーや人種的マイノリティが直面する独特の困難にも目を向け、多様なLGBTQ+コミュニティをより包摂する意味合いが込められているとされています。

2023年2月のシドニーでは、マルディグラの開催に合わせて、多数のプログレッシブプライドフラッグや、それをあしらったデザインが、空港をはじめ、街のいたるところを彩っていました。

シドニー空港の到着口にて。空港に着いて、一番最初に目に入ってきました。
こちらは6色のレインボーですが、市内を走るトラムの駅がとっても華やかになっています

なお国内では、2023年5月、山口県内で初めて開催された山口レインボープライドにて、パレード参加者全員にこのプログレッシブプライドフラッグが配布されました。参加者の皆さんの手元に、その旗がいくつか見えます。

2023.5.5 山口市内にて開催された、山口レインボープライドにて撮影

今後、日本国内でもこちらのフラッグを見かけることが増えるかもしれません。まずは、LGBTQ+コミュニティでどんなフラッグが使われているのか、色々調べてみることをお勧めします。例えば、「この旗って、見たことある?」「これは何を表しているんだろう」というような会話をきっかけに、周りの方ともコミュニケーションが広がりそうですね。

■プライド月間にできること

ここまで、プライド月間の歴史や背景、レインボーフラッグやプログレッシブプライドフラッグなど多様なシンボルについても、ご紹介してきました。では6月の「プライド月間」は、どんな取り組みをすると良いでしょうか。

●企業や職場で
組織内でプライド月間に関する活動を行う場合、その理由や意義、企業としてのスタンスやポリシーについても情報発信しながら行うと良いでしょう。周囲の納得感はもちろん、主体的に関わる参加者を増やす上でも大切なステップです。

ー SNSアカウントのロゴマークをレインボー仕様に
 ※なぜレインボー仕様にしているのか、企業としてのメッセージも同時に発信することをおすすめします。
ー 社内でLGBTQ+をテーマにした企画を行う
 例)ランチタイムセッション、LGBTQ+映画上映会、外部講師を招いてのセミナーなど
ーフラッグやバッジを身につけてアライであることを表明する
ー 社内報やイントラネットを活用した関連の情報発信
 記載例)最近のニュース、プライド月間やレインボーフラッグの説明、「あなたもアライに」などの呼びかけ
ー 他社とのコラボレーション

●家庭や地域で
プライド月間にできることは職場に限らず、身近な環境でもいろいろとあります。ご家族や親戚、友人とも話題にしてみましょう。学校や大学で、LGBTQ+に関する適切な知識を学ぶ機会を得る子ども・若者たちは増えています。そうした若い世代から教えてもらえることがあるかもしれません。

ー LGBTQ+をテーマにした番組やドラマ等を一緒に視聴する
 ※動画配信サービスは、関連の映画やドラマ作品が多数視聴できるようになっています
ー LGBTQ+をテーマにしたコミックや書籍を読んでみる
ー 最近のニュースを話題にして、お互いの考えを話し合ってみる
 例)婚姻の平等を求める裁判について、学校の制服・校則の話題など
ー 会社で研修を受けていたら、その話題や自分が感じたことを伝えてみる
ー フラッグやバッチを身につけてアライであることを表明する
ー SNSに関連の投稿をしてみたり、関連の記事をシェアする

まずはできそうなことからトライしてみましょう。

以上のような活動を通じて、差別のない、公正で平等な社会の実現に向けて、たとえ少しずつであっても歩みを進めていくことが大切です。プライド月間をきっかけに、共に前進してくださる仲間が増えることを期待しています。

【参考・出典】
・LGBTを読みとく -クィア・スタディーズ入門- (森山至貴著・ちくま新書)
・LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の闘い(ジェローム・ポーレン著、北丸雄二訳・サウザンブックス社)
・東京レインボープライド・公式サイト 「プライドパレードについて」

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五十嵐 ゆり

1973年東京都生まれ。2012年、LGBTQ支援団体Rainbow Soupを発足。2015年3月にNPO法人化し、レズビアンであることをオープンにする。2015年7月、アメリカ国務省主催のLGBTプログラム研修生に選抜され、全米各地を訪問。2017年8月、オランダ・アムステルダム市より招聘を受け「international guests Amsterdam Pride 2017」プログラムに参加。
2018年、レインボーノッツ合同会社を設立。当事者としての経験や最新情報などをベースに、企業・自治体のSOGI・LGBTQ施策支援・社外相談窓口対応を展開。2019年〜2023年6月まで一社LGBT法連合会理事を務める。2023年4月より、NPO法人プライドハウス東京 共同代表に就任。

  • 一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所 認定トレーナー
  • 筑紫女学園大学非常勤講師