SOGIE/ LGBTQ+ コラム

(13) 「LGBT理解増進法」とは?2026年基本計画と企業に求められる実務解説

2026年6月16日、「LGBT理解増進法」の基本計画が閣議決定されました。法律の施行からまもなく3年。長く待たれていた計画が、ようやく示されたかたちです。

レインボーノッツでは、企業のDEI・SOGIに関する研修や相談対応に日々携わっています。企業の現場に関わる立場から、「そもそも理解増進法とは何か」をあらためておさらいしつつ、今回の基本計画を企業がどう受け止めればいいのかを、できるだけかみ砕いて整理します。

目次
◾️ そもそも「LGBT理解増進法」とは
◾️ 「基本計画」とは何だったのか
◾️企業の視点で読むとーー中心は「周知」
◾️実は、企業には“すでに義務”がある
◾️では、企業は何をすればいいのか
◾️おわりに

この記事のポイント

  • 「LGBT理解増進法」は、差別を禁止する法律ではなく、理解を“増進”するための理念法
  • 2026年6月、法施行から約3年を経て、ようやく「基本計画」が閣議決定された
  • 企業向けの施策は「周知」が中心。一方で、企業にはすでに果たすべき“義務”がある

そもそも「LGBT理解増進法」とは

正式名称は「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」。2023年6月23日に公布・施行されました。本記事では、広く知られている「LGBT理解増進法」という呼称を用いますが、LGBT法連合会などの団体は「SOGI理解増進法と表記しています。この法律が対象とするのは、特定の人々(LGBT)ではなく、性的指向・ジェンダーアイデンティティ(SOGI)という、誰もがもっている属性だからです。

まずおさえておきたいのは、この法律の“性格”です。これは、差別を禁止する「差別禁止法」ではありません。名前のとおり、性的指向やジェンダーアイデンティティ(SOGI)についての「理解を増進する」ことを目的とした、いわば理念を示す法律です。

国や地方公共団体、事業主、学校などに、それぞれの立場で理解増進に取り組む役割を求めていますが、企業(事業主)に課されるのは、基本的に「努力義務」です。「〜するよう努める」といった書き方で、罰則を伴う強い義務ではありません。だからこそ、実際にどこまで取り組むかは、企業の姿勢に委ねられている、という面があります。

「基本計画」とは何だったのか

この法律には、「政府は基本計画を定める」と書かれていました。基本計画とは、法律の理念を“どんな施策で実現していくか”を示す、いわば実行のための設計図です。

ところが、その基本計画が、施行から約3年ものあいだ示されてきませんでした。今回、2026年6月にようやく閣議決定されたのが、その計画です。

企業に関わる部分を見ると、主に次のような内容が示されています。

  • 公正な採用選考の推進
  • 企業の取組事例の周知
  • SOGIに関する侮辱的な言動、アウティング(本人の了解なく暴露すること)、カミングアウトの強要・禁止などが、職場のハラスメントに「該当し得る」ことを、パンフレット等で周知すること

企業の視点で読むと——中心は「周知」

ここで気づくのは、企業向けの施策の多くが「周知」、つまり“知らせること”を中心にしている点です。

厚生労働省の委託調査(令和6年度)では、何らかのハラスメント防止の取組をしている企業は7割を超えます。しかし中身を見ると、アウティングがハラスメントにあたると社内で明示・周知している企業は7.0%、カミングアウトを強要してはならないと明示している企業は4.5%。SOGIに固有の対応となると、大企業を含めても、まだ低い水準にとどまっています。

つまり、“周知すべき中身”そのものが、まだ現場に十分届いていない。同じ「周知」を重ねるだけでは動きにくい現実が、ここにあります。

実は、企業には“すでに義務”がある

ここは、実務として知っておきたいポイントです。

SOGIに関わるハラスメントは、それがパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントにあたる限り、企業はすでに防止の措置義務を負っています。さらに2026年10月からは、カスタマーハラスメント(労働施策総合推進法)と、就職活動中の学生などへのセクシュアルハラスメント(男女雇用機会均等法)についても、事業主の措置義務が始まります。

基本計画も、SOGIに関わる言動がこれらのハラスメントに「該当し得る」と認めています。だとすれば、企業に求められているのは“新しい義務”ではなく、すでにある義務を、現場でどう実装するかだと言えます。

参考までに、女性活躍推進法には、行動計画の策定や情報公表といった「実装を促す仕組み」があります。同じ2025年の法改正では、そのうち情報公表が強化され、男女の賃金差や女性管理職比率を、101人以上の企業が公表することになりました。SOGIについては、そこまでの仕組みには踏み込まれていません。だからこそ、企業が自ら一歩を設計する意味があります。

では、企業は何をすればいいのか

基本計画を“なぞる”だけでは、現場はなかなか変わりません。企業が取り組む価値のあることは、たとえば次のようなことです。

  • ハラスメント防止規程(就業規則)に、SOGIに関する言動やアウティング等を明確に位置づける
  • 相談窓口の担当者が、SOGIに関する相談に適切に対応できるよう備える
  • 管理職が、知識だけでなく“対応”までできるよう研修する
  • 取り組みが、実際に職場の困りごとの解消につながっているかを、定期的にふりかえる

理解を広げることは、大切な出発点です。けれど、理解が「実装」と「検証」まで届いて初めて、現場は変わっていきます

おわりに

基本計画は、3年越しに示された、たしかな一歩です。同時に企業にとっては、「ここから先は自分たちで設計する」ことが求められる内容でもあります。

レインボーノッツでは、研修、規程づくり、相談窓口、ERG支援などを通じて、“理解”を“実装”へとつなげるお手伝いをしています。基本計画をきっかけに、自社の取り組みを一段先へ進めたい——そんな企業のみなさまは、お気軽にご相談ください。

(参考データ:厚生労働省委託「令和6年度 職場におけるダイバーシティ調査・推進事業 報告書」2025年。法令:労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、女性活躍推進法の各2025年改正。)

五十嵐 ゆり

1973年東京都生まれ。2012年、LGBTQ支援団体Rainbow Soupを発足。2015年3月にNPO法人化し、レズビアンであることをオープンにする。2015年7月、アメリカ国務省主催のLGBTプログラム研修生に選抜され、全米各地を訪問。2017年8月、オランダ・アムステルダム市より招聘を受け「international guests Amsterdam Pride 2017」プログラムに参加。
2018年、レインボーノッツ合同会社を設立。当事者としての経験や最新情報などをベースに、企業・自治体のSOGI・LGBTQ施策支援・社外相談窓口対応を展開。2019年〜2023年6月まで一社LGBT法連合会理事を務める。2023年4月より、NPO法人プライドハウス東京 共同代表に就任。

  • 一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所 認定トレーナー
  • 筑紫女学園大学非常勤講師